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    第5章 個人事務所で海洋法制などの調査研究に従事
    第4-1節 東シナ海大陸棚境界画定にどんな未来があるか-百年の争いか(その1)


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     第5章・目次
      第1節: 東京砂漠で社会人生活の第一歩を踏み出す
      第2節: ビジネスに不器用な私の悩みと焦り
      第3節: 日韓大陸棚協定を深掘りする
      第4-1節: 東シナ海大陸棚境界画定にどんな未来があるか-百年の争いか(その1)
      第4-2節: 東シナ海大陸棚境界画定にどんな未来があるか-百年の争いか(その2)
      第5節: 天から舞い降りた新聞広告、運命の分岐点となる



  東シナ海における日韓間および日中間での大陸棚境界画定に関し、どんな未来が描けるであろうか。持論というほど ではないが、拙論をここに記したい。日本は中国や韓国との大陸棚の境界画定に関し、今後どう向き 合うべきか、についてである。興味をおもちでない方は、他人の独り言と割り切って、本節を読み飛ばし次にお進み いただきたい。

  日韓大陸棚の分界であるが、対馬海峡とその東西両海域周辺での大陸棚境界画定について言えば、現行の「日韓大陸棚北部の 境界画定に関する協定」をそのまま踏襲することでほとんど問題はないように見受けられる。只、上司である潮事務所長によれば、 その線引きには調整すべき若干の技術的課題が残されているという。

  それはさておき、問題は、「共同開発区域」を規定する、韓国本土や済州島のはるか南方海域に存する大陸棚の 境界画定協定である。その協定の期限は2028年である。期限を迎える3年前の2025年に書面予告を行なえば、2028年の期限日をもって、 またはその後いつでも終了させられることになっている。

  日本にとって、「共同開発区域」協定を失効させる重要な機会となろう。50年間の有効期間を過ぎてもそのまま継続させ、 「共同開発区域」を日韓中間線以南の日本寄りの200海里EEZ海域内に設定しておくことは、日本には到底受け入れ難いことであろう。 日本の政治的判断として、それ継続することはありえないと思われる。尚、日本側から一旦失効させておき、その後いつしか時を改めて、 日本側から境界線画定のための新たな交渉を公式に申し入れ、仕切り直しをすることに何の不都合もない。とは言え、不都合がある 場合には、2025年の失効予告と同時に、大陸棚分界の協議につき申し入れをしておくことで事足りるであろう。

  同協定の失効を明示する外交文書の提示をもって「共同開発区域」を海図上から消し去っておくことが肝要と思われる。 先ず、日本にとって不利であり、かつ無益のままである協定を失効させる。同協定を白紙撤回しておく。 白紙化しておかなければ、韓国側が主張する陸地の自然延長論、即ち「韓国の大陸棚は沖縄舟状海盆の中軸まで伸びる」という主張を なおも容認するかのように受けとめられかねない。あるいは、日本側が主張する等距離中間線論を放棄したかのような誤った メッセージを発信し続けることになりかねない。さらに、同じく、沖縄海盆まで主権的権利が伸長していると主張する中国の自然延長論に対しても、 日本は腰砕けになりかねない。

  日本にとっては、等距離中間線が真に妥当であることの法的論拠を再度しっかりと主張し直すことのできる千載一遇のチャンス である。日韓協定締結以来半世紀振りに巡ってくるチャンスである。再交渉において韓国側に日本の主張の論拠とその妥当性を しっかり展開し直せば、将来における中国との画定交渉に向けた力強い備えにもなろう。先ずは、2028年6月にきっぱりと 失効させると同時に、いつでも線引きの再交渉に臨む用意がある旨申し入れるべきである。 特に「共同開発区域」については、綺麗に消し去り、線引きを仕切り直しするのが至当である。

  日韓協定発効年の1978年以降の経過を振り返れば、「共同開発区域」では、若干の試掘のみで何の実質的な商業的海底石油 ガス生産にもつながらなかった。

  日韓協定の条項を観ても、両国の大陸棚に対する法的立場はもともと害されないことになっている。即ち、同協定の規定では、同開発区域に対する日韓の 主権的権利を決定するものとは見なされない。また、大陸棚境界画定に関するそれぞれの法的立場を害するのもではないと規定される。 日本は改めてこの原点に立ち返り、九州南西海域における200海里EEZと大陸棚の境界画定に関する立場や法的根拠に改めて真剣に 向き合うべきである。

  現在では国連海洋法条約が成立しており、また同条約下での大陸棚画定に関わる諸国間の慣行や国際司法判例が幾つか積み重ねられてきた。 それらの慣行や判例を精査しながら、日韓・日中間での境界画定に適用あるいは準用され得るルールを見極めることが重要である。 日韓協定締結時点では、「1958年大陸棚条約」という成文国際法と「北海大陸棚事件」の国際司法判決がルールの主要部分であった。当時と 現在での大きな違いがそこにある。

  休題閑話。東シナ海での大陸棚画定には、大きく分けて三つの境界線案があると考えられる。 第1案。日韓・日中間ともに、日本が主張する等距離中間線による大枠の線引きとするというものである。過去30年ほどの国家慣行からして、 それをベースに線引きすることが最も妥当性があることを貫くべきである。ただし、海岸形状や長さ、海底地形、地質構造などの自然条件との関連において、 衡平性を担保するとの観点から、その線に対する微調整を行なうことは排除されない。

  自然条件の一つとして「沖縄舟状海盆(トラフ)」を考慮すれば、両国間の合意によって、等距離中間線は若干中国や韓国寄りに、あるいは逆に日本寄りに 微調整されることもありうる。だが、日本も中国・韓国も、それぞれ相手側に痛み分け的に互いに譲歩する結果として、等距離中間線に収めるということも ありえよう。

  なお、尖閣諸島は日本固有の領土であり、当然の帰結としてそれを基点にしての等距離中間線ということなる。しかし、日中間の境界画定では、 中国による尖閣諸島に対する領土主権の主張が最も厄介であり、その最大の障害となることは避けられない。エカフェ(ECAFE)が 尖閣諸島北東海域に海底石油資源の世界最大級の賦存可能性を記す報告書の発表後、暫くして中国はその領土主権を持ち出した。

  第2案。中国・韓国の主権的権利が及ぶ大陸棚は、自国陸地の自然延長をたどって沖縄海盆まで伸びているという 論理に基づく線引きである。論理の帰結として、日本との線引きは、その海盆の中軸部をもって行なうのが妥当であるということに繋がる。 その場合、日中間の海盆中軸線は、いきなり尖閣諸島を大きく回り込んで、中国本土と尖閣諸島との間の等距離中間線へと繋がって行く ことになる。

  ところで、2012年12月に、韓国は国連の「大陸棚限界委員会」に対し、自国の大陸棚は沖縄海盆まで延伸していると 申し立てた。同委員会は、向かい合っている(相対する)二国間の間にあって、両岸間の距離が400海里未満にある大陸棚の境界線を裁定 する任務を負う機関ではない。両国間で紛争を引き起こすことに繋がるような裁定を下すこともできない。だが、韓国はそれを百も 承知の上で、自国の大陸棚の限界は海盆中軸まで及ぶことを国際社会にアピールしているのである。日本は 口上書で抗議した。

第3案。日中、日韓において主張が重複する大陸棚全体を基本的に「共同開発区域」とする妥協案(折衷案)である。 その場合の資源分配の方途については、コスト折半と利益等分化が基本となろう。日韓大陸棚共同開発協定にその原形を見ることができる。

  第1~3案のいずれの案でも、大陸棚の上部水域である200海里EEZの境界線と大陸棚のそれとを合致させるのか、 それとも合致させないのかというもう一つの問題が惹起されよう。
第1案の場合では、日韓・日中合意をもって、両線を合致させるのが最も妥当と思われる。
第2案の場合では、日本にとっては、海盆の中軸線を、EEZの境界線と合致させることなど全くありえない。等距離中間線以南の日本側EEZ水域の 海底下に中国や韓国が主権的権利を有する大陸棚が存在することになろう。理論的にはありえても、実際には国益上も国家慣行上もありえない 線引きである。

  第3案の場合では、大陸棚もEEZ水域も同じ境界線で囲まれる「共同開発区域」と「共同漁業管轄区域」とするのが一案となろう。 同区域での石油ガス資源の探査開発に関し、そのコストと利益の等分化を基本ルールとする二国間協定を結ぶことになろう。 共同漁業水域での水産資源管理については共通の操業規制ルールと適正な漁獲割当量などについて協定されよう。 いずれにせよ、同区域内での海底石油開発や、上部水域での漁業活動に適用される法令については多様なバリエーションがあろうが、 法令の取り締まりは、それぞれの当事国が厳正かつ適正に執行する必要がある。または、相手漁船への監視員の相互臨検と通報制度も 有効であるかもしれない。

  第1~3案のいずれの場合であっても、日中韓3ヶ国の合意が必要となる地理上の点がある。即ち、少なくとも一か所の三重合点が 生じる。日中韓3ヶ国が同時に合意に至らない場合には、それぞれ別個に二国間同士で合意することになろう。二国間協定上、第3の当事国 による三重合点に関する同意が必要とされることを互いに留保しながら、事を進めざるをえないであろう。究極的には、3ヶ国が合意に至る 必要がある。合意に至らない場合、等距離中間線ルールが義務的に適用されることにはならない。

  第1、2案の境界線案について、日中・日韓のいずれの場合も合意をみるに至ることは極めて困難である。主張の隔たりが余りにも 大き過ぎるからである。韓国や中国が自然延長論をもって沖縄海盆中軸論に固執すればするほど、等距離中間線での線引きは日本への 大幅な政治的譲歩に違いない。他方、日本からすれば、自然延長論での線引きはこれまた余りにも大きな譲歩である。互いに トレードオフの関係に立たされよう。かくして、第1、2案の境界画定には収斂しがたい隔たりがあると言わざるをえない。

  第3案による日韓境界線は、現行の「共同開発区域協定」でのそれと基本的に同じになる。日本あるいは韓国が協定を 一旦破棄しておきながら、同じような線引きをもって同じような共同開発区域に合意し直すことを意味する。その場合、日本も 韓国も、再交渉しながら互いに何の譲歩も引き出せなかったことになり、強い批判を自国民から浴びることが必定となろう。

  日中間での線引きでは、中国は、尖閣諸島を日本の固有領土として受け入れ、かつ等距離中間線と海盆中軸線との間に 横たわる日中間の重複大陸棚を「共同開発区域」と認めるであろうか。 中国にとって、尖閣諸島への主権を放棄し、なおかつ中間線から海盆中軸までの大陸棚を日本側に譲歩するのも同然となる。 それとも、一方で日本は尖閣諸島を大陸棚線引きの起点とせず、他方で中国は尖閣諸島への領土主権を棚上げして、中国本土沿岸と南西 諸島間の中間線と海盆中軸線との間に横たわる大陸棚を「共同開発区域」とするような第3案に日中両国は同意できるであろうか。

  日本は現在固有の領土として実効支配を続け、かつ死守する尖閣諸島の領土主権について絶対に譲ることなどありえない。中国にとって 核心的利益として、その主権主張を絶対に放棄しないというのであれば、二国間で平和的に協議して事が収まるということはない。 また、領土を巡る異常な対峙をそのままにしておきながら、第1、2案に言う大陸棚の線引きにおいて、互いに大きな政治的譲歩を 期待することはありえるだろうのか。大陸棚の線引きのためだけに、領土を巡る主張を棚上げしたり、尖閣諸島を線引きの起点と しないなどと言った譲歩など、日中双方にとってありうることであろうか。いずれもありえるとは到底考えられない。 両国が共に最優先したいことは、尖閣諸島を巡る対峙に自らの核心的な国益に適うようにケリを付けることである。大陸棚の線引きを 優先させ、領土主権を線引きに従属させるような扱いは全くないに違いない。

  日中間においては、第3案は、基本的に、中国本土と尖閣諸島間の中間線以南の尖閣諸島周辺の大陸棚を「共同開発区域」 とすることになる。日本にとっては、韓国との間でかつて「共同開発区域」を受け入れた場合とは比較にならないほど遥かに 大きな譲歩となろう。否、致命的な譲歩となろう。共同開発区域には尖閣諸島も包摂されることになり、日本の領土主権を同区域内 に置き去りにすることを意味する。それは、あってはならない致命的な譲歩であると思われる。日本には全く想定外の大陸棚分界である。 自然延長論に重きを置く中国の主張に対し、日韓共同開発区域協定の締結時と同じような類いの譲歩はありえない。ましてや 尖閣諸島を共同開発区域に置き去りにすることはありえない。

  さて、日本が選択するのは第1案でしかありえない。中国や韓国の論拠への迎合的な譲歩は全く不要である。先ずは二か国間 で外交協議を重ね、線引きの合意を目指す他ない。日本はどんな論拠を展開するのか。50年ほど前の1970年代初期・中期での日中韓のそれぞれの 国内情勢や東アジア情勢、さらに世界情勢などは、現在とは全く異なる。韓国はもとより、中国の政治・経済・軍事・科学技術力 なども著しく伸長している。だとしても、理不尽な境界線主張には譲歩すべきではないし、受け入れるべきではない。国家何百年もの 禍根を残すようなことはあってはならない。そして、今後も、実力行使ではなく、法的ルールの適用でもっての平和的解決 を目指し、東シナ海における200EEZと大陸棚の分界にしっかりと向き合わねばならない。



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