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深海底のコバルト・リッチ・クラスト(その1/総論): 
クラストの探査開発と将来展望について

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画像は「海洋研究開発機構 (JAMSTEC)」が「テクノオーシャン 2014」において展示したコバルトリッチ・鉄マンガン・クラスト(Cobalt-rich Ferromanganese Crusts)の実物標本である。
[画像撮影: 2014.10.2 /2014年10月2~4日に神戸で開催された「テクノオーシャン 2014」と題する海洋技術に関する展示会・シンポジウムにて][拡大画像: x26559.jpg]


1.コバルト・リッチ・クラストとは
cobalt-rich crust [略: CRC]; cobalt-rich manganese crust [deposits].

    コバルト・リッチ・クラストは1981年にハワイ南西海域で発見されたとされている。具体的には、1980年代初頭ドイツの研究グループ によって経済的ポテンシャルが期待される資源として最初に注目された。以来マーシャル諸島から ミクロネシア海域にかけて、さらにその北方の西太平洋の公海海域において調査がなされてきた。鉱物資源として注目されるきっかけは、 1970年代末の「ザイール・シャバ紛争」を契機とした、世界的コバルト需給の混乱によって価格高騰がもたらされていたことであった。

    ・ 分布: 例えば、太平洋の中西部熱帯海域の比較的浅い海域で、特に水深1000~2400mにある平頂海山(ギヨ)の頂部から中腹斜面 にかけて賦存する。日本の200海里排他的水域(EEZ)と公海の境界域辺りにも有望な海山が分布する。深海底4、5000mに賦存する マンガン団塊よりもずっと浅い水深(1,000~2,500メートルほど)に賦存し、採取が相対的に容易であると見込まれるため、その 開発が注目されている。

    ・ 形状: 玄武岩、リン灰石などの基盤岩の表面上を、厚さ数mm~数10cmでアスファルト状あるいはクラスト (皮殻) 状にこびりつくように 覆っている。

    ・ 含有有用金属/化学組成: マンガン団塊と類似する「黒褐色の鉄・マンガン酸化物」である。化学組成はマンガン団塊と 類似した鉄・マンガンを主成分とする酸化物で、コバルト、ニッケル、チタン、白金、レアアースなどを含有する。一般的に、 コバルトの含有率がマンガン団塊に比して3~5倍ほど高い(約0.9%)のが特徴であり、それ故にコバルト・リッチ・クラストと いわれる。また、微量の白金をも含むことから、その経済的価値が高いとされる。

    ・ 成因: 海水起源と言われるが、定説はないとされる。その成長速度は極めて遅く100万年で1~6mm程度と言われている。




2.コバルトリッチ・フェロマンガン・クラストなどの実物標本

(1)東海大学海洋科学博物館におけるクラスト実物標本の展示
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画像1は、南鳥島南方の海山を調査した「東海大学丸二世」(702トン)が1985年12月に発見し採取した、コバルトを多量に含む良質の コバルト・クラストである。コバルトは最先端の工業を支える希少金属であり、日本はほとんどを輸入に頼っている。このため、 日本の200カイリ経済水域(EEZ)域内に賦存するコバルト・クラストは、将来の「準国産」鉱物資源として注目される。 画像2は容器内に保存されるクラストの実物展示風景。

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3. 海山の断面図に示される赤い部分は基盤岩・火山岩類、黒い部分は石灰岩、白い部分は堆積物である。クラストが 賦存する下限は水深2,300~2,400mと記されている。 
[画像撮影: 2010.03.東海大学海洋科学博物館(Tokai University Marine Science Museum)にて] [拡大画像: x21916.jpg][拡大画像: x21917.jpg][拡大画像: x21918.jpg][拡大画像: x22161.jpg: 解説パネル(1)] [拡大画像: x22162.jpg: 解説パネル(2)]

(2)国立科学博物館におけるフェロマンガン・クラスト (Ferromanganese Crust)の展示
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画像は、東京・国立科学博物館で開催された特別展「深海」 (2013年7月7日~10月9日) において展示された「鉄マンガン・クラスト Ferromanganese Crust」のサンプルである。
説明書きには「鉄マンガンクラスト Ferromanganese Crust: 「拓洋第五海山」の水深1,917mで採取された鉄マンガンクラスト。 クリーム色の基盤岩から層状に厚く成長している」と記される。

英国海洋調査船「チャレンジャーI世号」による探検航海 (1873年から76年までの3年半) において人類史上初めて発見された マンガン団塊 (manganese nodules) は、通例数mm~数10㎝程度の、ジャガイモのような、やや扁平の球状の塊 (ノジュール、 nodule) であるが、それらが多数付着し合って板状あるいは層状の「クラスト」 (crust; 皮殻・外皮) になって、 海底表面を覆っているものがある。それが「マンガン・クラスト」、あるいは「鉄マンガン・クラスト」といわれるものである。

マンガン・クラストのうち、特にコバルトの含有に富んでいるものは、コバルトリッチ・クラストと呼ばれる。例えば、西太平洋の 海山の水深1000~2400mほどにある平頂や中腹斜面を、数mm~10㎝ほどの厚さで覆う板状のコバルトリッチ・クラストが見られる。
[画像撮影: 2013.10./国立科学博物館・特別展「深海」][拡大画像: x25560.jpg]


[参考]日本列島南方海域における資源賦存図
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東シナ海沖縄舟状海盆や小笠原諸島海域のピンク色が熱水活動域、朱色が鉄マンガンクラスト、黄色がメタンハイドレートの賦存を 記している。右下方に「第五海山」、「南鳥島」がある。数多くの海山にクラストが賦存しているといわれる。
[画像出典: 国立科学博物館・特別展「深海」][拡大画像: x25571.jpg][縮小画像: z19592.jpg]


3.コバルトリッチ・クラストの探査開発の将来展望
1980年代初頭に同クラストが太平洋海域において発見され、経済的ポテンシャルのある資源として最初に注目されて以来、 米国、日本、中国、ロシア、豪州、ニュージーランドなどが調査を続けてきた。

太平洋の公海域(沿岸諸国のEEZや大陸棚管轄権の及ばない、いわば国際区域)において、2012年(平成24年)に日本と中国が、国連の 「国際海底機構(ISA; International Seabed Authority, UN)」に探査権の申請を行い、2014年(平成26年)1月に同機構との間で、 以後15年間にわたる探査契約を世界で初めて締結した。また、現在(2017年・平成29年)ではロシア、ブラジル、韓国も公海域 での探査権を取得している。

[参考]「エネルギー・金属鉱物資源機構」のウェブサイト→ https://www.jogmec.go.jp/metal/metal_10_000011.html

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