画像1-3は長崎県松浦市鷹島の入り江を閉め切って、その海水を淡水化して造られた、日本初の「海中ダム」
(海洋淡水化湖)である。「海中ダム」は聴き慣れない用語なので理解するのに一瞬戸惑ってしまうが、単純にいえば
「入り江の海域を閉め切って造られたダム」、「海の中に造られたダム」であることを意味する。もっとも堰き止められた
海水は淡水化され人間の営みに益されている。
このダムの建設事業の正式名称は「鷹島地区県営畑地帯総合土地改良事業」である。ダム傍には本事業計画を説明する
行政パネルが立てられているが、それによると「島内のほぼ全域にわたる耕地3000haに対し、農業用水の確保を中心として、畑地灌漑や
水田用水補給などを総合的に実施し、農業生産を安定化させるとともに、耕地の高度利用や新規作物の導入など行って、
農業経営の安定と所得向上を図る目的の事業である」という。
県などの行政官によって作成されたものであろうが、余計な修飾語の混じらない、また他の解釈を生む余地のない
行政文書スタイルで、その事業目的が簡潔に説明されている。
他方、ダム傍には「鷹島土地改良区理事長」が作成したという碑文が造作されている。その行間には、島民の長年の水不足への労苦
と水資源への切望、海中ダムの完成の島民の喜びと謝意、そして将来の農業振興への期待がにじみ出ている。
そんな碑文を原文のまま(無修正にて)ここに紹介する。
本島は全面積が約十七・〇六平方キロメートルの小さな島である上に台形状の地形で豊富な森林も河川も少なく慢性的な農業用水不足
によるきびしい農業経営を強いられてきた。
この状況から脱却するため昭和六十一年度に県営畑地帯総合土地改良事業が採択された。平成元年には鷹島ダムが着工され五ヶ年
の歳月を要し平成五年に完成の運びとなった。鷹島ダムは本島にダムの適地がないため海の入り江を締め切り淡水化させると
云うユニークな施設であるこの水資源を最大限に活用し活力に満ちた農業と潤いと安らぎあふれる町となることを目指すものである。
当ダムを含む事業の完成は受益者を始め全町民の喜びとするところであり本施設が鷹島町の振興と農業再生の道を拓くと共に後世
に永く伝承されることを願いここに事業完成を記念しこの碑を建立する。
平成6年1月吉日 鷹島土地改良区理事長 宮本正則
[撮影年月日:2023.06.16/場所: 長崎県松浦市・鷹島海中ダム湖にて。鷹島は「鷹島備前大橋」にて九州本土(佐賀県唐津市備前町)
と結ばれる]