一枚の特選フォト⌈海 & 船⌋
天体高度測程儀クロス・スタフ (愛称「ヤコブの杖」)
「東京ディズニーシー」 リゾート内にある「メディテレーニアンハーバー」ゾーンの桟橋に、
3本マストのガレオン船「ルネサンス号」が係留されている。同号の船尾楼には、航海中の速力、方位、航走距離、潮の流れ、
太陽・北極星などの天体高度その他を総合的に勘案しながら自船の大洋上での位置を推算したり、航海日誌を記したりする
航海・海図室のような部屋がある。
画像は、そのキャビンに展示されている天体高度測程儀の一つであるクロス・スタフ (cross-staff)(愛称「ヤコブの杖」、
後に別名としてフォア・スタフと呼ばれる)である。 古来より、大洋航海において船位を決定する上での最も重要な要素は、経度と緯度をできるだけ正確に推算することであった。 精密な船内時計 (クロノメーター) が存在しなかった時代には、自船の経度を正確に 決定することは不可能であった。他方、緯度の正確な推算には何よりも太陽や北極星などの天体高度の測程が不可欠であった。
1492年大西洋の西回り航海 (第一回目) に就いたコロンブスは、記録によれば、天体高度観測のために、サンタ・マリア号に
「航海用アストロラーベ」(またはアストロラーブ)とともに、
「コードラント」を持ち込んだが、前者のアストロラーベを実際には使用しなかった
とされる(まだその使用法をよく知らなかったという)。 彼が天体観測にもっぱら用いたのはコードラントの方であった。 コードラント (象限儀) とは、四分円の板 (四分儀) で、観測者は2つの覗き孔を通して前方天空上にある天体を目視しながら、 四分円の頂部から垂直に吊るした糸が指し示す、弧の部分に刻まれた目盛り (度数) を読み取って、その高度角を知るというものであった。 即ち、2つの覗き孔を通して天体を覗き見た「視線」と、その頂部から重力で吊り下げられた糸が作る「鉛直線」とのなす角度をもって、 天体の高度角を算出するというものである。だが、これらの航海用アストロラーベもコードラントも、動揺の激しい船上で 使いこなし正確な位置を推算することは甚だむずかしいことであった。 コードラント参考画像
コードラントの時代に出現したとされるクロス・スタフ (上画像) は、航海用アストロラーベやコードラントよりも
ずっと使いやすく、観測誤差もより少ないことから広く用いられていたという。だが、コロンブス自身はその当時まだそれを
知らなかったといわれる。
クロス・スタフの長い棒には、角度を示す目盛りが刻まれ、かつ十文字片(クロス・ピース)が直角に取り付けられている。
より小さいピースを取り付けた方の棒端を自身の目の前に置き、他端を天体方向に向けつつ、それらのピースを前後にスライドさせる。
ピースの下端を地平線に、上端を目標天体にちょうど収まるように、ピースをスライドさせながら、上下2つの目標間の
測角を求めていく。そして、長い棒上の角度を示す目盛り (度数) を読み取る。2つの目標間の測角が大角度になったり、
あるいは小角度である場合に適合できるように幾つかのピースが取り付けられている。
参考文献 ・ 「帆船 艤装と歴史編」(海洋文庫18)、杉浦昭典、舵社、1992年、106-110ページ ・ 「航海術 海に挑む人間の歴史」(中公新書135)、茂在寅男、中央公論社、1976年、104-113ページ [2014.04.24 東京ディズニーシーのガレオン船⌈ルネサンス号⌋にて][拡大画像: x25980.jpg]
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使用法概略: 先ず、最右にある縦の弧状取っ手の最下端を左手でしっかりと握りもつ。そのすぐ左にある縦の取っ手を 右手で握り支えもつ。 最右の円弧に取り付けられた見通し窓(画像にはない)を通して、最左先端に取り付けられた小さな反射板(画像にはない)からの 太陽の光点を捉える。 この見通し線(目視線)は地平線と平行に保たれる。他方、最左上のより小さい円弧に取り付けられた通し窓(画像にはない)から 差し込む太陽の光を、その反射板で受け、最右の円弧上の見通し窓へ、そして観測者の目へと導く。 かくして、2つの見通し窓をスライドさせながら、反射板を中心にして2目標(太陽光線と目視線)間の角度を測定するというもの。
言葉では説明しがたいので、別の機会にイラストを添付することにしたい。なお、上記図書「航海術」(110ページ)に大変参考となる
イラストが掲載されている。 |