漁業技術の画像集・FishTech
著作者/水産大学校名誉教授・理学博士 前田弘
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第 5 部 22 メキシコの漁業 + 参考資料 1968年2月から69年8月まで、Instituto Tecnologico y Estudios Superiores de Monterrey の客員教授として、 MexicoのSonora州Guaymasにある海洋学部に派遣された。この間に撮影した写真を整理したものである。 1つの国でも、太平洋岸と大西洋岸では漁業は全く異なり、北部の砂漠地帯から南部の熱帯降雨林まで、気候の 変化に富む。北部では魚類はほとんど食べないが、南部では塩干品まで見られ、魚食の習慣は地方によって異なる。 それとともに、漁業の地域経済に占める役割が異なる。 この国の漁業の概要を示すには十分な資料がないので、(1) GuaymasにおけるFlorida型エビトロール、(2) Veracruz における定置網および(3) その他の3部に分けて示す。
第1部のFlorida型のエビトロールは、一時は外地における日本の合弁事業の花形であり、その管理に当たる卒業生
が多かった。しかし、その割りには情報が少なかったので教材として整理したものである。第2部のVeracruzに
おける定置網は、定置網そのものを示すよりも、日本と異なる社会制度と考え方の土地における国際協力の際に
起こりうる問題点を記すことを目的とする。第3部は断片的な写真を集めたもので、系統的な意味はない。
No.1
No.2
No.3
No.4
No.5
No.6
No.7 Guaymas港はメキシコ太平洋岸にあるFlorida型のエビトロール船の最大の根拠地である。そこに係船してあった 船団の写真である。 アメリカとの国境から600km南のカリフォルニア湾に面した砂漠の町である。ここにいくつかのエビ冷凍プラント がある。 エビトロール船(Florida type shrimp trawlerあるいはFlorida type double riggerと呼ばれる)は、実質的 には冷凍プラントが所有する。 生物研究所の調査結果によって解禁日と終了日が決まる。解禁が近づくと、船主はまず船長を探す。船長は月極め で船主から船を借り、賃貸料とエビの買取り価格を決める。乗組員は船長との契約である。それぞれの船の運営は 船長にまかされ、したがって、乗組員は会社との雇用関係にない。 Guaymasは綿の積み出し港であるが、エビトロール以外には、小型の巾着網でイワシを漁獲し、フィシミールに 加工する小さなプラントがあるだけである。また町では魚を食べる習慣はほとんどない。 エビ冷凍プラントの従業員は期間雇用である。したがって、エビの漁期間は漁況によって町全体の活気が左右され、 漁期外では町全体が沈滞してしまう。すなわち、monocultureの欠点がそのまま現れる。この間、この船を使える 代替漁業はなく、すべて係船される。 普通、漁船はオーダーメイドで、1隻ずつ細部の構造が異なる。しかし、double riggerでは、船に対する考え方は 全く異なる。すなわち、造船所が何通りかの船を予め作っておき、それを船主が買う。また船長は漁期ごとに雇わ れる。したがって、細部の構造に、船主と船長の好みが入込む余地はほとんどない。同様なことが網についても当て はまる。
No.8 No.8は典型的なFlorida型double riggerの写真である。 漁期外の係船中にはドックで保守と修理が行われるが、これは船主が行い、船長は後から決まるので、細部まで 保守が行届いているとみなせない。 船長は自分の儲けの中から乗組員を雇う。普通は船長・機関長・コック他1名の4名が乗り組む。これでは、漁獲が 多いときには、労働が烈しいが、その方が給料が多くなるので、乗組員は人数を増やすことを好まない。最も熟練 しているのは、当然船長と機関長であり、この両名がは漁獲物の処理や網修理の主力となり、あとの2名はその補助 に過ぎない。 船体は長さの割りに幅が広い。これは漁場が近いので、船速には重点を置かず、曳網力に重点が置かれている ためである。 甲板は1層で、写真に示すように大きく反っている。船室は1層で、著しく前方に偏り、その前端に操舵室がある。 その幅は、左右に辛うじて人が通れる幅を両舷に沿ってあけ、ほぼ船体一杯にとってある。 操舵室の前後方向は、舵輪の後ろに船長が座り、その後ろは辛うじて人が通れる程度空いている。(前に向いた 4つの窓の後ろの縦の引き戸までが操舵室である。) 操舵室には、計器として磁気コンパスと乾式記録紙を使う魚探しかない。機関は高速ディゼルで、その発停は 操舵室で機関長が行う。操業中の機関室は無人で、変速・発停は操舵室で船長が自分自身で行う。 操舵室の後は食堂で、乗組員はそこで休息する。季節によって昼間だけか夜間だけ操業をする。ベッドは甲板の 下の船首付近にある。漁場が岸に近いときは、船を岸近くに泊め、船番だけを残して、出迎えのトラックに乗って 自宅から通勤するので、ベッドを使うことは少ない。 食堂のすぐ後にマストと、それよりやや長い2本のアウトリガー(=リグ)があり、その各々から1統ずつの網を 曳く。入港中はリグを立てる(No.1―No.7)。したがってマストを含めこれら3本が目立つ。 アウトリガーを立てたままだと、船の安定が著しく悪いので、離岸次第直ちに水平に倒される。この漁法は アメリカのメキシコ湾岸の油田地帯に起源があり、リグには油井のドリルな廃材が使われた。そのためと、太く すると重いので、上下と前後あるいは前後方向だけ細い鉄のロッドで補強する。この補強の様子はNo.10からNo.18 に見られる。 アウトリガーの先端にはトップローラがついている。これはトラックの車輪を利用することが多い。 マストの後にトロールウインチがある。普通のトロール船ではウインチは1軸で左右方向であるが、Florida型では 船首尾方向の3軸(下段は2軸で左右の網のワープを捲込み、上段は1軸でトライネットのワープを捲く)で、この漁法 の特徴の1つである。マスト付近とウインチはNo.7の桟橋につながれた船の中央部が分かり易い。 操舵室と食堂との境と食堂の後は窓になっていて、操舵室の舵輪の位置からデッキの作業を見通せるようになって いる。 トロールウインチより後方、すなわち船の後の約1/2は作業甲板になり、その後端には小さなダビットがある。 これからトライネットが曳かれる。 トライネットとは、小さなエビ網で、材質はエビ網と同じであるが、大型のプランクトンネット程度の大きさで、 そのオッターボード(No.9)は学校の机の蓋よりやや大きい。 この漁法は、砂泥質の海底に分散するエビを対象とする。これは魚探では探知できないので、操業中はこの小さい 網を一定の時間間隔で引上げ、入ったエビを数えて漁場選択の指針とする。 マストの付け根と船尾中央を支点とする逆V字型のハシゴがある。
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多数の索具が見られる。動索はワイヤーであるが、支索は細い鉄のロッドを1mか2mに切り、両端を小さな輪にして 繋合わせたものである。 なお、第2部では主な作業船として、double riggerを使ったので、構造の詳細は第2部を参照して欲しい。
No.9 トライネットのダビットとオッターボードの写真である。 漁場に到着すると、デッキに置いてあった網を吊りだす。
No.10
No.11 1本のワープが、オッターボードの約10から20m手前で2股に分かれ、それぞれにオッターボードが付く。 船首は左。右舷がわのオッターボードで、ワープがオッターボードの手前で2股になっていることが分かる。 オッターボードは木製の平板横長で、スリットがある。otter pendantはオッターボードの上端と下端から付き、 下のotter pendantはチェインである。
No.12 左舷がわの網のオッターボードで、ブラケットとotter pendantの様子が分かる。(船首は右)
No.13 網を吊りだし、オッターボードをトップローラまで引揚げて、網が正常に開いているがどうかを確かめる。次に オッターボードを海面で止め、オッターボードの作動を確かめ、ワープを所定の長さまで伸ばし、曳網する。 曳網中、一定の時間間隔でトライネットを揚げて、網に入ったエビを数える。
No.14
No.15 袖網の先端の写真である。ヘッドロープとグランドロープはほとんど目立たない。袖網の先端には筋綱がない。 これがFlorida型のエビ網の特徴である。 グランドロープの前にチェーンがあり、チクラーチェーンと呼ばれる。砂に潜っているエビにこれが当たると エビは砂から飛び出し、そのすぐ後からくる網に入る。
No.16
No.17
No.18 網にはサイドトロールの網と同様、ポークラインがある。これに鈎竿を引っ掛けて、袋網を引寄せる。
No.19 マストの先端にある滑車によってコッドエンドを吊上げ、漁獲物をデッキにあける。 吊上げられたコッドエンドの左にトライネット用のダビットが見られる。 左上にはベレーが写っている。グランドロープは細いことが分かる。左下のタンクは漁獲の中から選別したエビ を洗うためである。
No.20 コッドエンドに入った魚を食べるためにサメがコッドエンドを破る。それを防ぐために、コッドエンドにはサメ よけの房がついている。 この写真から分かるように、2統の網は2人だけで揚げられる。
No.21 ヘッドロープは目立たない。一番下がグランドロープで、ボビンはほとんど付いていない。2本のチクラーチェーン が目立つ。
No.22
No.23 漁獲の中からエビを選別し、残りは捨てられる。それを狙って鳥が集まる。
No.24 漁獲の中からエビだけを取り出して冷凍し、残りは捨てられる。
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これは、メキシコの大西洋岸で一番大きな港のVeracruz郊外に試験的に定置網を設置した作業を示す。 1と2に分かれる。 1は、定置網を固定する砂袋作りから始まり、漁獲を揚げるまでの作業の流れをカラー写真で示す(解説)。 2は、詳細の記録を残すと共に新聞対策を兼ねて毎日1本ずつモノクロ写真を撮ったものからの抜粋である (参考資料)。 ここで行った作業の本来の目的は、もっと大きな定置網を設置するための基礎資料を集めることであった。 しかし、新しい土地で新しいプロジェクトを行うとき予想しない種々の問題が派生する。そのような問題を 洗い出すとともに、現地の社会制度や人間・船その他の能力を知っておかなければならない。その1つの手段 として小型の定置網を入れた。この方式は成功であったと考えられる。その際に起こった問題について 「参考資料」では思い切ったコメントを加えた。定置網を全く見たことがない―したがって、どんなものか 考えられない―漁師を使って定置網を入れようとした試みである。
No.1
No.2 定置網を固定するには、昔はイカリとか石を詰めたモッコが使われた。しかし、それでは、漁場の海底に 石の山が残って、次の設置に差し支えるので、砂袋を用いて固定する方式に変わった。 小型定置網といえども、固定するためには莫大な量の砂袋が必要である。それを2通りの方法で調達した。 その一つは商港付近で製作し、フロリダ型エビトローラで設置場所まで運ぶ方式である。
No.3 定置網の垣網は岸近くまで伸びる。エビトローラはあまり浅いところまで入られない。もう1つは、漁場に 近い砂浜で調達する方式である。
No.4
No.5
No.6 基準になる台アバを固定するために、多量の砂袋をまとめて投入する。この地方では、やや大型の船はエビ トローラしかない。この船は肩幅が広く、このような作業には適している。 全体像が把握できていないし、集団で働いたことがなく、動かせないような大きな構造物を作ったことのない 漁師を使ってこのような作業を行った。したがって、トラブルは絶えなかった。
No.7
No.8
No.9 定置網は部分に分けて日本で仕立てて送られてきた。その枠にするシステムを点検し、補修する。それとともに、 小型定置網とはどれ位の大きさか、大体どのような構造かを分からせることもこの作業の目的である。
No.10
No.11
No.12
No.13
No.14 固定された台アバを基準とし、運動場の枠を張る。
No.15
No.16
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[No.17: ft_image_5_22_2/image033.jpg]
No.18
No.19
No.20
No.21 運動場の枠を固定するために多数の枝を出し、その各々を砂袋で固定する。その準備をする。
No.22 岸に向かって垣網の浮子綱を伸ばす。 垣網の固定には、近くの砂浜で砂袋を作り、2・3隻の小舟に積んで一ヵ所にまとめて投入する方式が繰返された。
No.23
No.24 垣網は毛羽立った材料で作られ目立つように黄色に染められている。この下縁に錘としてチェーンを付け なければならない。 地面に座って作業をすることに不満があり、給料の追加を要求されることがしばしば起こった。何かの問題を 見つけ出しこのようなことを要求する風潮は一般的気質だろう。 この網の設置は、日本側が請負い、それを現地で集めた賃金労務者が手伝うという考え方が底には流れていた。 メキシコの技術者が率先して作業をアレンジし、日本側の技術者がそれに助言をするという態度は両方の側 にいつの間にかなくなっていた。
No.25 垣網の浮子綱に枝を付ける
No.26 日本で用意された運動場の側網を引出し、底の部分の周りにチェーンを付ける。
No.27
No.28 側網を枠に取付ける。
No.29 網を設置し終わり、2・3日して網を起こす。
No.30 網起こし終わり。
No.31
No.32 初めての揚網であったが、漁獲は多かった。しかし、現地の漁師は刺網程度の漁具は扱ったことがあっても、 網起こしは始めてだったので要領がわからず、網をたるませたところにサワラの群が突っ込み、かなりの部分が 網に刺さってしまった。 主対象のサワラに対する需要はあるが、定置網では当然多くの他の魚種が漁獲される。それらの中には食べられるが、 この地方として需要のない魚種が含まれる。 これで一応試験的定置網としては成功したとみなせる。しかし、試験網が成功しかけると、その権益等を めぐって新たな問題が派生した。また、魚が獲れると漁師の賃上げ要求が烈しくなった。しかし、それらは、 我々外国人が関知する問題でない。すなわち、漁獲に成功しても多くの問題があり、それを現地サイドで克服 しなければ、技術は定着しないだろう。
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アメリカの巾着網は、次の点で日本の巾着網と異なる:(1) power blockを用いて網を揚げる。(2) 軸が 船首尾方向に走るpurse winchを使う。(3) skiffを使う。(4)網は同じ目合いで同じ長さのstripを縫い合わせた だけである。(5) purse ring bridle とsinker lineはチェーンで作られる。(6) 環綱はwireである。 この写真集は、これらの違いを示すためである。 No.1からNo.12までは、カリフォルニア半島のEnsenadaにおける巾着網船と網の写真である。Ensenadaは アメリカのカリフォルニア州の南に続くカリフォルニア半島のアメリカ国境近くの免税地帯にある。 すぐ北にあるアメリカよりpower blockを使って網を揚げる方式の中古の巾着船を輸入し、カン詰の原料に するイワシを漁獲する。したがって、網と船はアメリカにおけるそれらに近い。
No.1 車から右が1隻の巾着船である。日本の巾着網と異なり、日帰りの単船操業である。 居住区は前に偏り、その前端2層目が操舵室になる。 昼間操業で、マストの頂上の見張台(crow ‘s nest)から魚群を探す。網は、長いブームの先端から吊 られたpower blockで揚げられる。power block用のブームの後にskiffが見られる。
No.2 この船はpower blockが開発される以前に建造され、turn tableが残っままである。 Turn tableとは、この写真に見られるような四角の大きなテーブルである。写真の左下隅に見られるのは center pinで、ここを中心に、この大きなturn tableが回転する。 網の後にskiffを載せて出漁するが、この写真では降ろされている。 網は左旋回をしながら投入されるので、浮子は右舷がわ、沈子は左舷がわに積まれる。 手前の船の船尾に見られる3本のレールは、今は使っていないturn tableを固定するとともに、skiffを滑らせる ためである。 右の船の左舷には環が見られる。purse ring bridleはチェーンでできており、環綱はwireである。
No.3 これは典型的なpurse winchの写真である。(船首は左)アメリカ式巾着網の特徴の1つは、purse winchである。 purse winchは船首尾方向に軸が走る3つのドラムよりなる。 purse wireはこのウインチの真横の左舷ブルワーク上にあるpurse davitを経て前と後に伸びる。 日本の船では、支索はワイヤである。しかし、この船では支索は細い鉄のロッドで、その長さは下端のチェーン で調整される。
No.4 典型的なskiffの写真である。長さは幅の約1.5倍で、トラックのエンジンを搭載する。
No.5 skiffはcork lineを乗り越えられるように、キールがskidになり、スクリューにはカバーが掛けられる。
No.6 power blockの写真である。 大きな油圧ブロックで、長いブームの先端から吊られ、網を揚げる。 Turn table式や日本の船が用いるネットホーラでは、網を低い位置から揚げながら広げなければならない。 しかし、power block方式では網は上から降りてくるのを広げるだけで、作業は楽である。(日本の船で使われる 網捌き機と似ているが、power blockは直接網を揚げる。網捌き機はネットホーラで揚げられた網を上に持ち 上げるので、機能は異なる。)
No.7 網は幅100目の同じ長さの長いstripを数本平行に縫い合わせて作られる。一番上のcork line selvage stripと 一番下のsinker line selvage stripだけが目合いが大きく網糸は太い。 沈子綱はチェーンである。
No.8 陸上で整備された網はpower blockによって船に積込まれる。
No.9
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日本の漁師は、右手に網針を持って時計方向に回したるみを調整しながら前に向かって進み、網を縫い合わせる。 この方法だと均等にたるませて、縫い合わせる網糸は太い網糸の谷と平行になる。 しかし、ここの漁師は、右手に網針を持って時計方向に回しながら網をかがることは日本の漁師の場合と同じ である。しかし、後退しながら作業をするので、タルミを調整するのは困難であり、かがる網糸は太い網糸と 反対に回るので山を斜めに横切ることになり、かがった糸は擦れ易い。 国が異なるとこのような些細な点が異なる。
No.10
No.11
No.12 日本の漁港に見られる最大の弱点は、船から漁獲物を揚げる設備である。これは鮮魚として魚を消費する場合、 わずかな傷でも価格が下がるので、機械化が妨げられるためである。現在では、養殖の餌料として消費することが 予めわかっている場合は、フィシポンプが使われる。しかし、それ以外の場合にはウインチを使ってタモ網で揚げ られる。 これはカン詰原料としてイワシを揚げるフィシポンプの写真である。
No.13
No.14
No.15
No.16
No.17 Guaymasにおいて、フィシミール原料としてイワシを漁獲する巾着網のネットホーラの写真である。この型の ネットホーラは日本ばかりでなく世界の他の地域では見られないので、参考に示す。 ミールプラントは小さく、イワシは取り易いので網は小さい。したがって、日本の刺網船が使うネットホーラ よりやや大きい程度のネットホーラでも十分なのだろう。
No.18
No.19
No.20
No.21 Guaymasにあるフィシミールプラントとその原料と製品である。高温で乾燥した砂漠地帯の海岸にあるが、原料 と製品はともに炎天下にバラ積みされているので、品質には問題があり、輸出用には全く適さない。しかし、 それらに経費がかからないだけに、価格が低く、地元では受け入れられている。 ここには原料とする魚の供給源としてエビトロールで混獲される魚がある。それにもかかわらず、エビトロール の混獲物は全く利用されていない。
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メキシコ南東部のYukatan半島には、red snapper(スペイン語では、Guachinango)漁業がある。 漁獲物は氷蔵にして持って帰り、加工プラントで、魚肉はフィレーにして食用に、頭はロブスターポット の餌用として、アメリカに輸出される。
No.1 Red snapper漁船と加工プラントの写真である。 漁船には種々の型がある。左端の2隻の黒い船はこの漁業用に作られた船である。red snapperは、この船の 船首付近の舷側に立てられているbicicleta(自転車という意味、赤く塗ってある)と呼ばれる釣具を用いて釣 られる。乗組員は多く、したがって、居室は大きい。 その左の白い船体に緑の線のある船もsnapper漁船の特徴を備え、船室は前にあるが広く、船尾付近にbicicleta を立ててあるのが見られる。 その手前の船には船室はないが、小舟を搭載している。漁場ではこれらの小舟を降ろして魚を釣る。すなわち、 かってのスペインがタラ漁業で行ったdory fishingと呼ばれる漁法と同じ方式がとられる。 Red snapper漁業は輸出産業なので、政府は力を入れ、輸出品を作る工場の基準に合格するような近代的な 加工プラントが建てられている。
No.2 Red snapper漁船の出港 甲板にはbicicletaはみられないが、2隻の小舟を搭載し、No.1の中央に見られる船と 同じ特徴を備える。 背景のアーチが並ぶのは、長い桟橋である。ここは遠浅なので、商船を着岸させるには2km以上の桟橋が必要 である。(陸岸は右、漁業に天然繊維が用いられていた頃はサイザル麻の積出港であった。)
No.3
No.4
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漁場の水深は100m以上あるので、手釣や竿釣の代わりに、このような道具が使われる。 パイプで作った柄を舷側に立てる。釣糸を巻くために直径40mのリールがその上に付けられ、このリールは ハンドルで回せる。このリールの上端には釣竿の代わりに、スプリングがある。これには普通は自動車の スプリングが使われる。このスプリングの先端に小さなプーリが付けられ、釣糸はリールからこのプーリを通って 降ろされる。
No.5 1本の道糸に約10本の釣針が付けられる。
No.6
No.7 Red snapper漁船には、当時のこの国としては珍しかったLoranと、乾式記録紙を用いた回転アーム式の魚探が 装備されている。 水深約100mで、急に深みに落込む肩の部分が好漁場とされていた。魚探は直接魚を見つけるためでなく、 水深の変化を知るためである。
No.8
No.9 この漁業は輸出産業である。首都から遠く離れた地元の産業振興対策として、政府が建てたモデルプラントの 写真である。 No.8では、氷蔵して持って帰ったred snapperが見られる。
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メキシコ湾岸では、南から回遊してくるサワラ(sierra)を追って、魚群とともに移動する地曳網漁師がある。 第2部に示す定置網は、この魚群をもっと効率の良い漁法で漁獲しようとする政府の計画に従って設置された。 地曳網の漁師は、魚群を追って移動する。しかし、魚群は次々に来遊するので、漁師の移動は早くない。 また、地曳網で漁獲される量の魚でも、海岸にある中都市の消費を上回るので、移動して一時的に留まる場所は、 メキシコ市等の大都市まで道路の便のよい都市の付近の砂浜に限られる。 サワラに対する需要は聖週間(スペイン語では、Semana Santa、復活祭の前の1週間)である。ちょうどこの時期に、 メキシコ市までの交通が便利なVeracruz付近にサワラが来遊するので、そこは最良の漁場になる。 これは、Veracruz市の東郊外に一時滞在していた地曳網漁師に関する写真である。 写真は現地で現像したので、最初から水滴の跡が残ったり、明るさにむらがあったりした。しかし、定置網が 設置される前から、同じ魚群を対象として行われていた地曳網に関する記録を残すために収録した。 No.1 No.2 家族と共に移動し、移動先に小屋を建てる。そこを根拠として、毎日かなりの範囲をトラックと小舟で移動する しながら漁業を続ける。 No.1では、小屋と海岸の間に網を干してある。 No.3 No.4 網を投入する漁船 以下No.13までの各作業に関する説明は省略する。 No.5
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No.7
No.8
No.9
No.10
No.11
No.12
No.13
No.14 網を船に積んで、長い砂浜に沿ってかなり広範囲に渡って魚群を探す。網を曳く人達はトラックに乗って それについて移動する。そこ距離は数十kmに及ぶ。 魚は魚市場から離れた砂浜に揚げられるので、漁獲物はこのトラックで市場まで運ばれる。
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